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第7話  

Author: ウサじゃが
一時間後、真司の車は人里離れた一軒の建物の前に停まった。

彼はドアを叩くと、髪が灰白色の老人が出てきた。

「木村家の後継が、わざわざこんなところに来るなんて珍しいね」老人は彼を中に招き入れ、一杯の熱いお茶を注いだ。

「何の痕跡も残さず消えた人間は、どこへ行くんだ?」真司は茶を飲む気もなく、単刀直入に切り出した。

「夜城市で跡形もなく消えた者は皆、元来た場所へ帰る。だがもし金を出す気があるなら、手伝ってやれんこともない」と老人は答えた。

「二億だ。人を探してくれ」真司は一瞬の躊躇もなく言った。

老人は、「引き受けた」と応じた。

その後、老人は真司に私との出会いの経緯と時期を詳しく尋ねた。

老人は話を聞き終えると、顎のひげを撫でながら分析した。

「つまり兼重さんはシステムエラーでこの世界に来たわけだ。普通の攻略者の任務期間は三年を超えない。彼女が五年も進んであなたに付き合ったのは、心底あなたが好きだったからに違いない。今回の失踪は、おそらくあなたが彼女にすまないことをしたのだろう」

それを聞き、真司は後ろめたそうな表情を浮かべ、「全ては誤解だ。彼女さえ戻ってきてくれれば、すべて説明できる」と言い繕おうとした。

「兼重さんの世界に連絡を取ることはできる。だが、彼女があなたの説明に耳を傾けるかどうかは別問題だ」老人は手を振りながら、淡々と言った。

「本当に方法があるのか!」真司は興奮した。

老人は一台の装置を取り出し、複雑な文字列を入力すると、なんと別の時空に接続することに成功した。

ただし、メッセージを受信したのは紗里ではなく、彼女の同僚である森田早奈(もりた はやな)だった。

「こんにちは、私は紗里の夫です。どうか彼女に会わせてください」真司は哀願した。

メッセージを受信した早奈は驚愕した。自らの世界に接触してきた者など初めてだった。

紗里がシステムエラーで異世界に取り残された話は、システムステーションの関係者の間で広く知られていた。

「私の知る限り、紗里はあんたの世界で結婚なんてしていない。それどころか、あんたのようなくず男と付き合って、五年もの時間を無駄にした。彼女のような優秀な攻略者が五年間でどれだけのSランク任務を達成できたか、あんたに分かるのか?あんたはずっと彼女の足を引っ張ってた。二度と
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